ゾンビ

ヒューマニズム系、社会派系、アート系に比して作品としての評価や作家性をかえりみられることの無いいわゆるB級映画・・・。
だが、映画の父リュミエール兄弟の時から、映画は今でいうB級テイストや見世物的趣向のほうが本来的なのかもしれないのだ。

前回のスターシップトゥルーパーズに続いて今回も映画についてです。
しのさんのブログにホラー映画の記事がありました。
僕もホラー映画が好きです。ホラー映画にもいろいろな種類がありますよね。
その一つ、「ゾンビ映画」について書こうと思いますがその前に少し前置きが長くなることをご了承ください。
まずホラー映画の種類から。
一つは猟奇殺人鬼系(サイコサスペンス)。
『サイコ』『悪魔のいけにえ』『羊たちの沈黙』『13日の金曜日』(以上4作品の犯人は同一人物−エド・ゲインがモデル)、日本では『CURE』、韓国では『殺人の追憶』などが傑作だと思います。
ただ『悪魔のいけにえ』や『13日の金曜日』などは、猟奇殺人鬼系というよりは「スプラッター系」と言ったほうが良いでしょう。他に『ハロウィン』や『エルム街の悪夢』、『スクリーム』、『ラストサマー』などがありますね。
猟奇殺人鬼系は(『セブン』のように)犯人の精神面に焦点が当てられますが、スプラッター系でそれは描かれない。
次にJホラー。
日本のホラー映画です。ジャパニーズホラーと言われ欧米のホラーとは違う独特な美意識が際立っています。『呪怨』『回路』『リング』『仄暗い水の底から』などなど海外からの評価も高い傑作がたくさんありますね。それらには、いわゆる幽霊がでてくることが多いです。
ハリウッドにも幽霊系(ゴースト系?)があります。『ポルターガイスト』、『エクソシスト』、『ペットセメタリー』などです。
そしてゾンビ系です。
ホラー映画で、もっともサブカル色が強いのがゾンビ系でしょう。エンターテイメント性もありますが「エクスプロイテーション映画」と言ったほうがいいかもしれません。「エクスプロイテーション映画」とは商業的利益を優先し、過激で刺激的な内容を低予算に作られた映画のことを言います。先ほどの「スプラッター系」もそうですね。
エクスプロイテーション映画としてホラーより頻繁に例に挙げられるのは、70年代黒人向けに大量に作られた「ブラックスプロイテーション映画」です。クエンティン・タランティーノらが大きな影響を受けました。
閑話休題
ゾンビ系もストレートに刺激的ですから、やはり商業的利益優先映画といわれてやぶさかではありません。ゾンビ映画は特に1980年代、世界中で流行し大量に制作されました。
『ゾンビ』『サンゲリア』『デモンズ』『死霊のはらわた』『バタリアン』『幽玄道士』・・・
ゾンビとはなにか―
「ゾンビ」は本来アフリカのブードゥー教の信仰に由来しているものでしたが、ゾンビ映画に出てくるゾンビは生きる屍=化け物のことである。青ざめた顔、あるいは腐りかけた姿でどんな攻撃をしかけてもへこたれない(笑)。ノソノソと近づいてくるが、つかまって噛みつかれるとその人もゾンビになってしまう。
そういった、みんながイメージするゾンビ像を作ったのは、ジョージ・A・ロメロである。
1968年の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』でそれは確立され、つづく『ゾンビ』で爆発的に世界に広まった。マイケルジャクソンの『スリラー』ももちろんロメロの影響です。
さて、ゾンビ映画の金字塔は、その名もずばり『ゾンビ』(DAWN OF THE DEAD・1978年)です。なんといってもロメロの『ゾンビ』です。必見です!
金字塔なので当然、ゾンビ映画にみんなが求める恐怖やグロテスクさが満載です。


しかし、ご安心ください。

特筆すべきことが他にあることこそ、金字塔たる所以なのです。


それは伝説にもなっている、ショッピングモールのシーン。
主人公たちは大量のゾンビに追われ、客のいない巨大なショッピングモールに逃げ込みます。彼らはショッピングモールを封鎖し、紛れ込んだゾンビたちも全滅させることに成功。
その瞬間ショッピングモール全体が彼らのものとなっていた。気が付けば、彼らは楽園を手に入れたのでした。巨大ショッピングモールには何から何までそろっていた。食料は大量にあるし、洋服、酒、宝石、武器、遊び道具それらがすべて彼らのものとなった。
それからけっこうな時間を割いて、少年心をくすぐる「夢いっぱいデパート生活」の映像が続き、この映画がゾンビ映画であることを忘れてしまう(!?)のでした。

すごい・・・。ショッピングモール占領から夢のデパート生活までのシーン、このおもしろさは激烈です。

しかし、何かに気付かされる。

監督が語るように、この映画は消費社会その他への痛烈な批判なのでした。
たしかにだんだんゾンビよりも人間の方が醜悪に見えてくる。

ただし・・・・・・・・・・説教くさくない!!

明らかにデパート生活のシーンは無邪気に描かれていて、しかも過剰に長く、なんとも愛おしいシーンなのです。
人間に対する皮肉と承認が同時に詰め込まれているようです。

良質なサブカル映画はヒューマニズム系、社会派系、アート系とは違って、多様な価値を承認する包容力を持っているように僕には感じられるのです。

※DAWN OF THE DEADは2004年に当のジョージ・A・ロメロによってリメイクされています。